希土類アルミネート系蓄光型蛍光体の出現とその光物性

田部勢津久・花田禎一(京都大学総合人間学部)

「ニューセラミックス」 vol.9, No.10,(1996) pp.27-33.執筆総説の文書fileより、転載。

1.はじめに
 通常の蛍光体は、照射している励起源(電子線、光など)を遮断すると発光は直ちに指数関数的に減衰して消える。この寿命は励起状態の輻射および非輻射遷移確率の和である減衰速度を反映する。その値は、発光種やホストにより様々だが、許容遷移を利用したものではマイクロ秒からナノ秒、希土類の4f準位間等の禁制遷移ではミリ秒からマイクロ秒のオーダである。ところが許容遷移発光を利用しつつ、かつ励起光遮断後も秒単位はおろか、10時間もの長残光性を示す蛍光体群がある。
 このうち自発光型長残光蛍光体は、Pm-147など(β線源、それ以前はRa-266のα線が用いられた)の放射線源を含んでいるため、取り扱いや廃棄の点で問題があり、また厳密にいうと、励起源遮断後という前述の定義からはずれる。もう一方の蓄光型長残光性物質は、紫外線やX線の遮断後、長寿命の発光が観測されるもので、照射により形成されたホスト中のトラップが漸次解放されるのに伴うものと考えられる。中でも1993年に開発された、ユーロピウム(Eu2+)を発光中心とするアルカリ土類アルミン酸塩結晶は、暗中10時間後も視認できるほどの残光を示す1)
 この驚くべき性質を有する希土類付活アルミネート蛍光体は、これまでの夜光塗料の特徴であった放射性という問題を一気に解決し、時計の文字盤用蛍光体の物質を置き換えたのみならず、様々な応用分野を開拓しつつある。この物質の開発の経緯や優れた特性とその応用、夜光物質の歴史については、この分野の先駆者である根本特殊化学の村山義彦氏により、非常に興味深く優れた解説2)が最近日経サイエンスに掲載されたので是非一読をお薦めする。一方筆者は希土類の光学遷移を利用した波長変換レーザや通信光増幅器用ガラスなど広義の蛍光体の研究に携わっているが、まだ未解明であるこの新物質の基礎光物性や長残光機構に興味を抱き、1994年から研究をスタートした後陣である3)。今回執筆依頼を受け、任に非ずの感もあるが、物質開発や実用特性以外の異なる観点、特に他の蓄光性蛍光体との比較、長残光機構解明を目指した研究について、紹介させていただく。

2.2価のユーロピウムはなぜおもしろい?
 周期律表上隣接するBa2+イオンとLa3+イオンは同じ電子配置を取り、核電荷の大きい分、イオン半径はBa2+>La3+である。2価のランタニドイオンは、内殻の4f軌道を除くと、Ba2+イオンと同価数、同じ最外殻電子配置(5s25p6)であり、結晶化学的にもアルカリ土類イオンと類似点が多い。ランタニド収縮とイオン価の違いにより、サイズはLa3+>Eu3+  基底状態のEu2+イオンはGd3+と同じ4f7電子配置8S7/2を有する。この8S7/2電子配置は、7つのスピン平行な電子で4f軌道がすべて満たされ、極めて安定なエネルギー状態であり、最低の4f軌道励起準位6P7/2は、これに比べるとかなりエネルギーが高く紫外域(2.8x104cm−1)になる。一方完全な空軌道である5dへの4f軌道からの遷移は、ΔL=1であるためLaporte許容であり、通常の4f準位間遷移に比べて遷移確率は10-10倍大きい。しかも5d軌道は4f軌道と異なり、5s25p6に遮蔽されていないので、配位子場の影響を大きく受け、エネルギー位置のみならず軌道の分裂様式もホストにより異なる4)。また核電荷の違いを反映して、2価イオンの5d軌道のエネルギーは等電子配置の3価イオンより低く、Eu2+の場合最低4f励起準位である6P7/2の近く、あるいはその下に位置する(このことは、Eu2+が酸化されてEu3+になりやすいことと無関係ではない)。したがって、5d-4f遷移による発光色は可視域に位置し、酸化物だけでも、紫、青、緑、硫化物中では赤色も示す。
表1:Eu(U)を利用した蛍光体のホスト材料
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  組成 発光ピーク波長 主な用途
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BaFX(X=Cl-I) 370-410nm イメージングプレート
CaWO3 375nm 増感紙
SrMgP2O7 394nm
Sr3(PO4)2 408nm
Sr2P2O7 420nm 複写機用蛍光ランプ
Ba3MgSi2O8 435nm
CaAl2O4(+Nd) 440nm(青紫) 長残光蛍光体*
(Sr,Ca)10(PO4)6Cl2 452nm 蛍光ランプ
BaMg2Al16O27 452nm 3波長型
BaAl8O13 480nm 高演色型蛍光ランプ
Sr2Si3O8・2SrCl2 490nm 高演色型
Sr4Al14O25(+Dy) 493nm(青) 長残光蛍光体*
SrAl2O4(+Dy) 520nm(緑) 長残光蛍光体*
CaS(+Sm) 650nm 赤外検出
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3.アルミネート結晶中の長残光特性
 表1の中で,CaAl2O4:Eu,Nd、Sr4Al14O25:Eu,Dy、SrAl2O4:Eu,Dyは、それぞれ紫、青、緑の残光維持時間が、1000分以上2)という長残光性蛍光体であり、発光中心であるEu2+にDy,Ndなどの他の希土類イオンを付活することにより機能発現する2)。本章ではこのうちSrAl2O4系の特性について解説する。試料作成はフラックスを用いず、通常の還元固相反応5)で行い、X線回折で単相を確かめた。
 Sr0.958Eu0.03Dy0.012Al2O4の、分光したXeランプ紫外光(250nm)照射中の蛍光強度、および30分照射遮断後の残光強度の時間依存性を図1に示す5)。照射中の通常蛍光強度は低温の方が大きいが、残光は100K以下の低温では殆ど観測されず,275K付近で最も強く長い寿命を示す。横軸がマイクロ秒(10−6s)ではなく、秒であるところが長残光たる所以である。照射中の蛍光強度がはじめ時間と共に増大しているのは蓄光が徐々に起こっているためで、360nm以上の長波長で励起したときは、通常蛍光の励起効率は短波長励起より高いにも関わらず、この立ち上がり現象は殆ど観測されない。  蛍光と長残光の励起スペクトルを図2に示すが、前者が4f-5d遷移に相当する360nm付近にピークを有しているのに対し、後者はそれより短波長の,200-250nmにピークがあり、明らかに蛍光と長残光の励起機構が異なり、蓄光は短波長側でより高効率で起こることを示している5)。
 蛍光寿命と残光寿命の温度依存性を図3に示す。蛍光減衰カーブは、5d軌道に相当する355nmのパルス光で励起を行うことにより測定したが、指数関数的に強度が減少する単純な速度方程式で解釈できるものであった。寿命(強度が1/eになる時間)は、1〜2μsのオーダーで、典型的な許容5d-4f遷移の値を示し、温度と共に単調に減少している。連続光励起中の通常蛍光強度の温度依存性も全く同じ傾向を示しており、このことから、両者の温度変化は非輻射緩和速度に依存した発光量子効率6)の温度依存性を反映していると考えられる。一方、蓄光後に観測される残光は非指数関数的な減衰を示しており、単純な緩和機構ではない。残光寿命(遮断直後の強度が1/10になる時間とした)は,150K以上で急激に上昇し、103秒以上の値を示している。275K付近で極大を示しているのは、蛍光寿命の減少から見られるように始準位である5d軌道の発光量子効率が温度と共に低下しているためで、活性化効率は単調に増大しているといえる。これらのことから、長残光に寄与しているのは、低い禁制遷移確率ではなく、熱活性化過程であると考えられる。


4.蓄光型蛍光体と発光の原理
 2価のEuを発光中心とする長残光性蛍光体(Long-Lasting Phosphor,LLP)の蓄光機構を考える上で、見落とせない物質群として輝尽性蛍光体がある。光刺激輝尽発光(Photo-Stimulated Luminescence, PSL)とは、X線などの第一の刺激のあとで、第二の光刺激(あるいは熱)を与えると、最初の刺激強度に依存する発光を示す現象である。1983年に報告された、BaFX(X=Cl,I):Eu2+のPSLを利用した放射線イメージングは、医療X線画像診断、DNA構造研究や医薬品開発に至る広範囲なバイオテクノロジーに画期的な貢献をしつつあり7)、今なおPSL材料に関する研究は盛んである。
 Baハライド結晶中のEu2+のPSL機構は次のように解釈されている(図4)。短波長光(X線)による一次励起により、Eu2+イオンはEu3+となり、電子は伝導帯に解放される。これらの電子は結晶中に生じたハライド空格子に捕獲され、準安定状態のカラーセンタとなる。これが蓄光にあたる。このトラップを解放するのに必要な二次励起長波長光(近赤外線など)を照射すると、捕獲された電子は再び伝導帯に解放された後、Eu3+に捕獲され、励起状態のEu2+となって、輝尽発光(紫)を生じる。この輝尽蛍光体を塗布した放射線画像センサがイメージングプレートであり、その原理は7);X線に露光されたプレートが画像読み取り装置内で搬送されながら、He-Neレーザビーム(633nm)で表面を走査される。レーザによって生じた紫色の輝尽発光(-390nm)を光電子倍増管で検出し、時系列のデジタル電気信号に変換し画像処理を行う;というもので、このシステムは、従来余り注目されなかった蛍光体の特性を利用した点で、新しい用途といえる。
 X線イメージング用輝尽蛍光体に要求される特性として、以下が挙げられる。1.電子(or正孔)のトラップ濃度が高いこと。2.トラップから解放されたキャリアによる発光効率が高いこと。3.トラップ、発光中心、結晶格子が、第一次励起光により、損傷や変化を受けないこと。4.トラップ深さが深く、エネルギー分布が単一であること。5.第二次励起光による残光が短く、可視光などの照射により残存トラップが容易に消去できること、などである。
 長残光性蛍光体(LLP)の場合、詳細な機構は明らかにはなっていないが、蓄光と長残光の原因は、ホスト中における電子(or正孔)トラップ形成とその解放による輻射再結合であることは、PSL蛍光体と共通であると思われる。PSLに要求される上述した特性の内、1〜3はLLPにも要求される特性であるが、4,5は当てはまらない因子である。光刺激輝尽蛍光体の場合は、選択的な二次刺激光なしで、トラップの解放が起こっては困るのであるが、長残光性蛍光体では、室温で適度に解放される程度の浅いエネルギー障壁とある程度のエネルギー分布が望ましい。
 両現象の違いを配位座標モデルを用いて説明すると次の様になると考えられる(図5)。PSLの場合、準安定トラップから、赤外光によって活性化される遷移は極めて短時間であり、Franck-Condonの原理により、その間に原子の位置は変化しない。したがって光学活性化に際しての状態の変化は、配位座標上で垂直な遷移として表され、エネルギーεoが必要となる。一方、LLPの場合は、格子振動による熱的活性化過程であり、発光励起準位とトラップの2つの状態間の最も低い障壁εTを乗り越えるエネルギーがあればよい。したがって同じ物質中のPSL励起に必要な光エネルギーは、熱ルミネッセンスを観測できるエネルギーkT(kはBoltzmann定数)より大きく、常にεo>εTが成立する。実際、BaFX:Eu2+の輝尽励起スペクトルのピークは600nm付近(2eV、He-Neレーザ波長の近く)にあるが、熱ルミネッセンスの観測される温度は17x103K(=2eV)よりはるかに低温である。このPSL物質の場合、室温で熱発光は示さないが、LLPにおいては、トラップ深さは深すぎず、極小座標が励起状態に近い方が望ましい。トラップと励起準位のポテンシャル曲線の位置関係が、蓄光型輝尽性を示すか、長残光性を示すかの違いを決定する因子であるということができる。


5.トラップエネルギーを求めるには?
 今述べたように、光輝尽蛍光体と長残光性蛍光体という2種類の蓄光型蛍光体には、共通の性質がある。蓄光を停止した後に、その温度を上昇させると、トラップに捕捉されていた電子や正孔が解放されて、発光中心で輻射再結合することにより、発光を示すもので、この現象を熱ルミネッセンスという。昇温速度一定で、熱ルミネッセンスを測定し、温度の関数として発光強度をプロットしたものをグロー曲線といい、このピーク温度や形状は、トラップ深さや昇温速度によって変化する。従って、種々の条件で測定したグロー曲線を解析すれば、輝尽蛍光や長残光に寄与しているトラップ障壁(図5のεT)を求めることができる。本稿では、Hoogenstraatenの方法8)について解説する。
 1種類の電子(or正孔)トラップ(濃度n、深さエネルギーε)と発光中心があるとし、いったん解放された伝導電子(orホール)が正孔(or電子)と再結合して発光に至る確率が、再びトラップされる確率より充分高いとし、解放される頻度因子をsとすると、
   dn/dT=nsexp(−ε/kT)、
が成立し、両辺は残光強度I(t)に比例する。低温T0で蓄光トラップされた電子(orホール)数をnT0とし、昇温速度β=dT/dtを用いて変数変換すると、温度Tにおいてトラップされている電子(ホール)数n(T)は
n(T)=nT0exp{−窒sT0 exp(−ε/kT)dT/β)
となる。よってI(T)∞dn/dTより、
I(T)∞nT0sexp(−ε/kT)exp{−窒sT0s×
         exp(−ε/kT)dT/β}
が成り立ち、これがグロー曲線を表す式となる。グロー曲線のピーク温度をTmとすると、dI(Tm)/dT=0であることから、
βε/kTm2=sexp(−ε/kTm)
が成立し、これより
ln(β/Tm2)=−(ε/k)Tm−1+const
が得られる。つまり異なる昇温速度βでグロー曲線を測定し、ln(β/Tm2)を1/Tmに対してプロットすれば、傾きからトラップ深さεを求めることができる。他にもいくつかの方法があるが、この方法は、実験が簡単で、かつ頻度因子sが未知であっても正確なεの値が得られる優れた方法である9)。
 我々は、試料を12Kまで冷却し、いくつかの波長の紫外光で蓄光を行った。3でも述べたように低温では残光は全く観測されない。この後、一定速度βで300Kまで昇温し、グロー曲線を測定した。図6にSrAl2O4:Eu,Dyのグロー曲線を種々の昇温速度βに対して示す。150Kと270K付近にピークを有することから、深さの異なる2種類のトラップが存在していることがわかる。一番下に、Dyを付活しない試料のグローカーブ(β=3K/min)を示しているが、少なくとも300K以下には殆どピークを有しない。このことからも、Dyがトラップの生成に関与していることがわかる。ピークシフトとβの関係から求めた、トラップ障壁εはそれぞれ、ε(150K)=0.3eV、ε(270K)=0.6eVであることがわかった。また、深い方のトラップの捕捉効率は、短波長側励起で若干大きく、残光の長寿命成分に対する寄与が大きいことも明らかとなった。室温付近にグローピークが存在することが長残光体の特徴といえる。


6.機構、トラップは何か?
 残光寿命、残光輝度などどれをとっても驚くべき新物質であるが、長残光の原因は明らかになっていない。
 2つの大きな疑問がある。1つは、長残光に寄与するキャリアが電子、正孔のどちらであるかだ。キャリアが電子であるとすると、次の機構が考えられる。すなわち、紫外線によりEu2+がEu3+に光酸化されるのに伴い、電子がホスト中のトラップ(例えばDy3+)に捕獲されて、室温の熱エネルギーにより解放された電子が再びEu3+と結合して励起状態のEu2+となり、発光と共に基底状態へ戻るというものである。Dy、Ndという元素はランタニド系列の中で,Eu、Ybを除くと比較的適度に2価が安定であるという、電子トラップとしては望ましい性質を有しているかにみえる。実際、長残光性はこの2種類以外の希土類を共ドープした時はあまり発現しない。しかし、単独ドープであるSrAl2O4:Euの光伝導のキャリアは正孔であることが知られている10)。紫外光によって生成される正孔がキャリアとすると、これまでの考え方では、電子を捕獲したEu2+がEu1+に変化することになる。そして正孔がDy3+やNd3+イオンに捕獲され、4価イオンの正孔トラップとなる。しかしこれは化学常識からはやや考えにくい。この結晶の151Euメスバウアースペクトルを我々は測定した。これは、 151Sm→151Eu(*)(β崩壊)→151Eu(g)に伴う共鳴ガンマ線(21.6keV)を利用している11)ので、測定中に計らずも試料が蓄光される可能性があるが、約90%の2価と10%の3価イオンを検出したのみで、明瞭な1価イオンの証拠は見られなかった。
 2つめの疑問は、この結晶中の何が長寿命トラップの役割を果たしているかだ。Ce4+、Yb3+、Eu2+イオン等の価数変化を起こしやすい希土類を含むガラスはX線着色を抑制したり、感光性を示すことが古くから知られており12)、また赤外線検出用の SrS:Eu2+,Sm3+輝尽蛍光体13)におけるように、希土類の電子や正孔のトラップとしての役割は珍しい現象ではない。しかし実は、量論組成よりわずかにAl2O3過剰のSr Al2O4:Eu2+結晶は、他の希土類イオンをドープしなくても弱く短時間(約10秒)ではあるが残光を示す10)。この事実は、添加希土類の役割はトラップそのものではなく、アルミネートホストに起因するトラップの生成促進あるいは安定化に寄与している事を示唆している。関連ある興味深い現象として、全くドーパントを含まないCaO-Al2O3系酸化物の紫外感光性14)は注目に値する。CaAl2O4、CaAl4O7結晶、および2成分ガラス(Ca3Al4O9組成に相当)は、紫外線やγ線の照射により、アルミ-酸素空孔中心(Al-OHC)を生成することがESRにより確かめられている14)。そしてこれらの化合物に共通なのは、Al-OHCを安定化する,AlO4四面体群を構造単位として有しており、ホールは四面体の頂点酸素に局在していることである。感光性の励起スペクトルは200-250nmにわたってピークを有し、SrAl2O4:Eu,Dy結晶の長残光励起スペクトルとかなり類似している。しかも紫外誘起吸収は昇温と共に150℃付近でブリーチされる。もしキャリアが正孔でトラップがAl-OHCであるとすると、室温での解放速度は小さく、輻射再結合は徐々に起こるであろう。添加希土類は3価のままSr2+サイトを置換し、過剰酸素の導入と適度なイオン化ポテンシャルにより、結晶中にわずかに存在する、Al-O-O-Al結合15)(Al-OHCの前駆体14))の還元を防ぐ役割を果たしているのかもしれない。もしAl-O-O-AlがLLPのトラップの前駆体とすると、結晶よりも紫外感光性の著しいアルミネートガラス中でより高密度にトラップが形成される可能性もある。が、以上はあくまで推測の域を出ない。機構解明のためには、蓄光、遮光中の光伝導度測定、ESR等によるトラップ同定や、単結晶を用いた分光データの蓄積が必要である。


7.新しい応用の可能性
 蓄光型蛍光体は、長残光を示したり、2次刺激光による輝尽蛍光を示すが、これはトラップの性質や最適温度の違いによるといって良い。発光中心を限定したとしても、ホスト組成や付活剤を選択することにより、欠陥の種類、安定性を調節できれば、長残光夜光ガラス、赤外検出器、イメージングプレートだけでなく、記録読み出し検出の3つをすべて光で行い、位置と光強度の次元をもった新しいタイプの光メモリの開発も可能である。酸化物だけでも無限の可能性があり、用途に応じた材料設計を可能とするのは地道な基礎研究による物質と機構の理解であると思う。
   長寿命欠陥(?=機能発現中心)の本質解明を目指した研究の進展と更なる新物質の開発が望まれる。


謝辞
 本文中の実験データは、京都大学総合人間学部において行われたものであり、当時大学院生の高崎久子氏に謝意を表する。


[参考文献]
1) 松沢隆嗣、竹内信義、青木康充、村山義彦、「第248回蛍光体同学会」1993年11月、p.7-13.
2) 村山義彦、「日経サイエンス」1996[6],20-29
3) 田部勢津久、高崎久子、花田禎一、日本セラミックス協会年会予稿集(1995)4月
4) 田部勢津久、「化学と工業」47[2], (1994) 120-123.
5) 高崎久子、田部勢津久、花田禎一、日本セラミックス協会学術論文誌、104[4], (1996) 322-326.
6) 田部勢津久、「希土類」No.23, (1993) 67-94.
7) 宮原惇二、「化学と工業」46[4],(1993)603-5.
8) W.Hoogenstraaten, Philips Res.Rept. 13 (1958) 515-693.
9) 中沢叡一郎、「蛍光体ハンドブック」オーム社,p.65-74
10) V.Abbruscato, J.Electrochem.Soc. 118, (1971) 930-93.
11) S.Tanabe, K.Hirao, N.Soga, J.Non-Cryst.Solids 113, 178-184 (1989)
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13) S.P.Keller, J.F.Mapes and G.Cheroff, Phys.Rev. 108, (1957) 663.
14) H.Hosono, K.Yamazaki and Y.Abe, J.Am.Ceram.Soc. 70[12] (1987) 867-873.
15) H.Hosono and Y.Abe, Inorg.Chem. 26[8], (1987) 1192-95.