当研究室では,「次世代フォトニクス用アクティブ材料」の開発を目指し,日々の研究を行っています.とりわけ,蓄光材料,次世代の固体照明,太陽電池,長距離大容量光通信技術を担う,無機光機能性ガラス&セラミックス材料の開発,その光物性と構造に関する研究に力を注いでいます.

 光を蓄える蓄光型材料には,暗闇でも光続ける特性を有する長残光蛍光体と呼ばれる物質群があります.長残光蛍光体は,視認性夜光塗料として避難誘導標識や時計の文字盤などに使用されています.しかしながら,現在普及している長残光蛍光体の色は紫外線を含まないLED照明下では蓄光性能が乏しく,発光色も青〜緑色が多く,十分な残光輝度を有する黄色〜赤色の長残光蛍光体はありません.当研究室では,青色で蓄光できる新材料の開発や,かつ残光色の多様化と残光輝度・時間の向上の研究に取り組んでいます.

親環境,省エネルギー照明デバイスとして現在注目されている白色LEDは,蛍光灯・白熱電球と比べて,電気-光変換効率がよくメンテナンスも容易なことから,「次世代固体照明デバイス」として既に普及しています.しかしながら,熱や高密度光励起による消光の問題や高視感効率を実現するナロ―バンド赤色発光蛍光体の新規開発などの研究が行われています.当研究室では,蛍光体波長変換部分を結晶化ガラスや透光性セラミックスといったAll Inorganic発光デバイスを目指し,LED高出力化による熱問題の解決や視感効率の向上に取り組んでいます.

蛍光を利用した温度計は蛍光温度計と呼ばれ,温度に対する発光強度,バンドシフトや広がり,蛍光寿命,蛍光強度比などの変化から,逆に温度を決定する温度計です.発光さえ検出できれば温度が分かるので,微小領域の温度や細胞内,触媒反応管など内部の温度を測定するのに向いています.当研究室では、生体透過性の高い発光を有し,信頼性の高いボルツマン分布型のレシオメトリック温度計になる遷移金属イオンや希土類イオンの蛍光温度計の開発に取り組んでいます.

 また,近年,地球温暖化やエネルギー資源の問題から,太陽電池への注目が一層高くなっており,高効率化に向けて様々な取り組みがなされています.当研究室では,結晶Si太陽電池のガラスカバー材料に,希土類を添加,太陽光スペクトルの波長を結晶Si太陽電池の感度が高い波長に変換する機能を付加させ,光・電気変換効率の向上を目指しています.

 光通信材料にも力を入れており,将来の更なる大容量,通信のためには,波長多重通信用の広帯域光増幅器が不可欠です当研究室では,広帯域光増幅器のための,希土類イオン,他元素イオンドープガラスの設計,評価も行っています.

 

 

長残光蛍光体による交流駆動LEDのチラツキ抑制
(左)GAGG:Ce,Cr  (右)YAG:Ce蛍光体
右は青色LEDの点滅に応答するが長残光蛍光体はチラツキが小さい.


サンプルガラス




 

最近の研究

1.光を蓄える長残光蛍光体

2.白色LED照明用蛍光体

3.非接触で温度を測る蛍光温度計

4.太陽電池高効率化を目指す可視-近赤外波長変換材料に関する研究

5.広帯域光ファイバ増幅器用材料に関する研究


1.光を蓄える長残光蛍光体

・様々な波長で残光する透光性セラミック長残光蛍光体

光を蓄える蓄光型材料には,暗闇でも光続ける特性を有する長残光蛍光体と呼ばれる物質群があります.長残光蛍光体は,視認性夜光塗料として避難誘導標識や時計の文字盤などに使用されています.しかしながら,現在普及している長残光蛍光体の色は紫外線を含まないLED照明下では蓄光性能が乏しく,発光色も青〜緑色が多く,十分な残光輝度を有する黄色〜赤色の長残光蛍光体はありません.当研究室では,青色で蓄光できる新材料の開発や,かつ残光色の多様化と残光輝度・時間の向上の研究に取り組んでいます.

 

”緑色長残光を示す透光性セラミックス” (YouTube動画)
”磁石に引き寄せられる白色長残光蛍光体” (YouTube動画)

蛍光体とは,外部から何らかのエネルギー(光,電子線,放射線,応力,熱など)が与えられた時に発光する材料であり,通常,励起源が遮断されるとその発光は減衰,消失し,その蛍光寿命は長いものでもミリ秒の時間スケールである.しかしながら,残光蛍光体は,励起源を遮断後も数秒から十数時間といった長時間発光し続ける特異な性質を持った蛍光体である.この特異的な性質は,外部からの光エネルギーを材料が吸収し,材料内に生成した電子またはホールを,一時的に結晶内欠陥にトラップすることを起源に持つ.このキャリアトラップ状態は,材料が一時的に光エネルギーを蓄えていることになるので,しばしば蓄光過程と呼ばれる.蓄光過程においてトラップされた電子・ホールは,室温における熱エネルギーにより,長い時間をかけて徐々に開放され,発光中心で再結合することにより残光現象を示す.この特異な性質を持つ長残光蛍光体が,夜光塗料として,時計の文字盤や緊急避難用の標識等に広く用いられている. これまでに多くの長残光蛍光体がEu2+やCe3+を添加した蛍光体において報告されてきたが,そのほとんどが紫外光蓄光が必要となる.一方で、近年、室内照明は蛍光灯から白色LEDに完全に置き換わりつつある.現在広く使用されている白色LEDは,青色LEDと可視蛍光体の組み合わせで実現されており,最短波長の光は450nm付近の青色光であり紫外線や紫色光は含まない.白色LED照明下における長残光蛍光体の応用を考えると,青色蓄光が必要不可欠である. 我々はCe3+を添加したガーネット蛍光体において,固体電子構造に基づいた材料設計により,新規青色蓄光可能な長残光蛍光体の開発に成功した. さらには,残光波長を近赤外領域に拡張し,バイオイメージング応用のための長残光プローブの開発や,アップコンバージョン蓄光などの研究に展開している.

2.白色LED照明用蛍光体

白色LEDの演色性向上を目指して数々の赤色蛍光体が開発されてきた. しかし人間の眼の視感度が低い赤色領域では, ブロードな発光スペクトルは視感度曲線とのミスマッチが大きいため不利である. そこで赤色の狭線発光を示すEu3+が魅力的な発光中心として挙げられるが, 従来の酸化物材料では, 効率の良い励起を可能とする電荷移動(Charge transfer; CT)励起バンドが酸素の2p軌道による制約のために250 nm付近の深紫外線域に位置しており, 現在市販されているLEDによる励起は困難である.

そこで我々は, Eu3+のCT励起バンドの長波長化を目指し, 新規Eu3+賦活酸窒化物蛍光体の開発に取り組んでいる. 酸窒化物は化合物組成中にN3-とO2-を含む無機化合物のことであり, 電気陰性度が小さい窒素の2p軌道のために, 価電子帯が上昇し, CT励起エネルギーが減少することが予測される. またEu3+4f-4f 遷移の自然放出確率は, 配位子場の局所構造に敏感である. そのためN3-とO2-による複合アニオン配位子場中では, アニオンそれぞれが持つ固有の性質(電気陰性度や分極率)の違いのために局所構造が歪み, 620 nm付近の赤色発光が大幅に増強されることが期待される.

以上のような背景から, 本研究ではEu3+添加YSiO2N赤色蛍光体を開発し, その蛍光特性を評価した. 励起スペクトルから, YSiO2N:Eu3+では遷移確率の大きなCT励起バンドが観測され, ピーク波長が80 nm (= 9.5 × 103 cm-1)以上長波長化し, 近紫外線による励起が可能であった. これは窒素2p軌道に起因する価電子帯上昇によるものであると考えられる. さらに蛍光スペクトルでは, Eu3+が対称性の低い複合アニオン配位子場を占有することにより, 620 nm付近の赤色発光が大幅に増強されたことが確認された. このように複合アニオン配位子場中のEu3+は非常にユニークな蛍光特性を示すことが明らかとなった. 現在も酸窒化物, 酸ハロゲン化物, 酸水素化物といったホスト化合物中のランタノイドイオンの蛍光特性に関して, 詳細な研究を進めている.



青色LED+Ce:YAG蛍光体=白色LED

3. 非接触で温度を測る蛍光温度計

非接触で信頼性の高い方法で温度計測は,生物学・医学分野や工学分野などあらゆる分野における技術的プロセスにおいて必要不可欠である.蛍光を利用した温度計は蛍光温度計と呼ばれ,温度に対する発光強度,バンドシフトや広がり,蛍光寿命,蛍光強度比などの変化から,逆に温度を決定する温度計である.これらの蛍光温度計のなかでも,蛍光強度比(FIR,Fluorescent intensity ratio)を利用した手法は,他の蛍光温度計の欠点を克服することが知られている.特に,熱的に結合された2つの励起状態から生じる発光の強度比の使用は,ボルツマン分布の単純で明確な物理学により発光強度比を記述できるため,最も信頼できる手法の1つである. 近年,Er3+やNd3+などのランタノイドイオンを利用したボルツマン分布型蛍光温度計が活発に研究されているが,4f-4fの輻射遷移確率と4fエネルギー準位がホスト化合物に対して非敏感であることから,新規ホスト探索による蛍光温度計の大幅な特性向上は望めない. 我々は、生体透過性の高い生体の窓と呼ばれる深赤色・近赤外領域に2つ発光遷移を有するCr3+を利用した蛍光温度計に着目し研究を進めている.Cr3+蛍光体においては,結晶場により二つの発光始準位である第一励起準位(2E)と第二励起準位(4T2)間のエネルギー差を変化させることができ,蛍光温度計としての測定温度範囲,温度感度,最小温度分解能を自由に設計可能であることを報告してきた.これらの材料設計指針に基づき,高温や低温でのボルツマン分布型レシオメトリック蛍光温度計の開発に成功した.これらの蛍光温度計は,in situのバイオ応用に向けた温度測定や広い温度範囲や過酷な環境下である触媒反応の温度計測などへの利用が期待される.

4.太陽電池高効率化を目指す可視-近赤外波長変換材料に関する研究

近年,太陽光発電はエネルギー環境問題を解決するクリーンエネルギーとして大きな注目を集めています.中でも,結晶シリコン太陽電池は,その長期信頼性,比較的高い変換効率などの利点をもつため太陽電池生産量のおよそ90%を占めています.太陽光スペクトルと結晶シリコン太陽電池の感度曲線を見ると,太陽光スペクトルは500nm付近に最大値を持ち,結晶シリコン太陽電池はその感度のピークを1000nm付近に持ちます.このため、結晶シリコン太陽電池の変換効率の最大値は28%となっています.太陽電池は、基本的に半導体の光起電力効果を利用しており,バンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ光子が入射したときのみ,光子から1電子正孔対を生じます.入射光子の過剰エネルギーは熱となって失われます.この熱によるロスが太陽電池効率を低くする原因の一つとなっています.

※グラフはクリックで拡大
バンドギャップに対して入射フォトンのエネルギーが小さければ透過,大きければ吸収されるが,エネルギー余剰分が熱損失となる 太陽光は,およそ500nmにピークを持つブロードなスペクトルをもつ.一方c-Si太陽電池がもっとも効率よく利用できる波長は1000nm付近の近赤外光

そして,解決策の一つとして量子切断蛍光体があげられます.量子切断蛍光体は,1つの高エネルギー光子を吸収して,より低エネルギーの2つの光子を放出する蛍光体です.太陽電池応用として,Yb3+をアクセプターに,Pr3+,Tm3+,Tb3+をドナーに用いた希土類イオンペアが報告されています.Yb3+イオンは,4f準位に2準位のみをもつ,2準位間の遷移は高い発光量子効率をもち,遷移波長はおよそ1000nmと結晶シリコン太陽電池の感度ピークと一致するという利点を持ちます.一方,ドナーイオンは,Yb3+の準位間エネルギーのおよそ2倍に相当する準位を持ちます。たとえばPr3+-Yb3+のペアでは,Pr3+の基底準位と3P0準位間のエネルギーはYb3+のエネルギーギャップのおよそ2倍です.また,Pr3+は,青色の吸収を持ち,これが太陽光スペクトルのピークと一致します.そのため,この図のように1つの青色光子を吸収して2つの1000nm光子に変換し,結晶シリコン太陽電池の効率向上が見込まれます.

    • Pr3+-Yb3+添加オキシフロライド透明結晶化ガラスの可視-近赤外波長変換特性の評価

      これまでの研究で,私たちはこのような組成のPr3+-Yb3+共添加ガラス試料において量子切断現象を観測しました.Pr3+3P0励起の時,1G4準位を介した2段階 のエネルギー移動が起こり,Yb3+が1光子励起から2光子放出される量子切断課程が考えられます.一方,1D2励起を考えると,Yb3+準位間エネルギーの2倍に十分なエネルギーギャップを持たないため,1光子-1光子過程となります.これを踏まえて,試料のPr3+イオンの吸収スペクトルと,Yb発光をモニターした励起スペクトルを比べると,励起3PJバンドは1D2励起バンドの1.6倍Yb3+イオンを励起していることがわかりました.これにより,3PJ励起では,1光子-1光子以上の過程が起こっていることが確認され,ガラス中で量子切断課程が起こっていることを証明しました.

      さらに,フォノンエネルギーの低い材料で損失を低減するため,酸化物ガラス中にフッ化物結晶を析出させ,酸化物ガラスの高いガラス形成能と化学的耐久性,及びフッ化物結晶の低いフォノンエネルギーによる高い希土類発光量子効率という,酸化物ガラスとフッ化物結晶の長所を合わせ持つ,オキシフロライド結晶化ガラスをホスト材料として,Pr3+およびYb3+イオンを添加した試料を作製し,光学特性を評価しています.

    • Ce3+-Yb3+系による可視-近赤外波長変換材料の開発

      本研究では,結晶Si太陽電池の変換効率向上のための波長変換材料を研究している.結晶Si太陽電池に代表される光電池は,バンドギャップ以上のエネルギーをもつ単一光子を照射しても,単一電子・正孔対しか発生せず,大部分が熱として失われている.太陽光は,400~600nm の波長域にピークを持つ,紫外から近赤外域まで広がるブロードなスペクトルを示すが,結晶Si太陽電池の変換効率は,500nm以下の波長域において低く,バンドギャップに相当する1μm付近で最大となる.一方,複数の希土類イオンにおいて1 つの光子を2 つの光子に切断する量子切断という現象が知られており,この現象を用いて,太陽光スペクトルを結晶Si太陽電池の感度に合う ように変換することにより,変換効率の最大値が10%ほど向上すると見積もられている.しかしながら,現在報告されている量子切断機構は,希土類のf-f遷移を用い ており,吸収断面積が小さく,吸収線幅も狭い.本研究は,太陽電池の変換効率が低い波長領域に,4f-5d 遷移の幅広く,強い吸収(380~500nm)を持つCe:YAGと結晶Si 太陽電池の変換効率が最大となる1μm 付近で量子効率100%近い発光を示すYb3+との間の量子切断機構の解明と太陽電池カバー材料としての性能評価を主として行っている.(Fig.1に量子切断の概略図を示す).実験方法としては,Ce3+とYb3+を共ドープしたYAG(Y3Al5O12)結晶を固相反応により作製し,発光・励起スペクトル,蛍光寿命測定などの評価を行った. Fig.2 に441nm 励起による発光スペクトル,Yb3+とCe3+発光の励起スペクトルを,Si 太陽電池の感度曲線と太陽光スペクトルと併せて示す.Ce3+の5d 準位の励起で,Yb3+2F5/2-2F7/2遷移に基づく1μm の発光を示し、Yb3+発光の励起スペクトルがCe3+発光のそれと一致した.以上より,Ce3+から蛍光寿命測定より,ET 確率を見積もった(Fig.3).Yb3+濃度が増加すると,短寿命,ET の高効率化が起き,ある濃度の試料において,ET 確率は約50%となった.よって,もし理想的な量子切断機構がCe3+からYb3+が生じれば,最大量子効率は約100%を超えると見積もられた.現在、更なる詳細な研究を行っている.

    • ※グラフはクリックで拡大(fig2、fig3)

5.広帯域光ファイバ増幅器用材料に関する研究

光ファイバ通信システムにおいては,大容量伝送とフレキシブルなネットワーク構築を可能とする,波長分割多重(WDM; Wavelength- Division- Multiplexing)が必要不可欠なシステムです.なかでも広帯域の信号光を増幅する光増幅器は重要であり,現在希土類ドープファイバが増幅媒質として用いられています.
通信情報量の飛躍的な増大に伴い,波長多重通信(WDM)システムの整備が急務とされており,2010年には,400波を越える波長による,テラビット通信の実現が報告されています.WDMシステムを支える種々のデバイス開発も熱を帯びていますが,光増幅器については,既存のシリカEDFA(Er doped fiber amplifier)では帯域が狭いため,通信帯域で平坦な利得を示す,光ファイバ増幅器への要請が強くなってきています.そこで本研究室ではさらなる広帯域化を目指して,Er3+イオンをはじめとしたPr3+,Tm3+などの希土類イオン,さらに遷移元素を用いた広帯域発光材料の実現を目標として研究を行ってきました.

光増幅器とは グラフ
  • Uバンド帯光増幅材料への応用を目指したEr3+ドープ酸化物結晶の光物性

    本研究では,近赤外発光材料としてのErドープガーネット結晶に着目し,光通信用Uバンド(波長1.625 〜1.675 μm)光アンプ材料としての応用可能性について検討を行っています.ErドープYAG(Y3Al5O12)等のガーネット結晶は,Er3+の4f電子準位間遷移(4I13/24I15/2)により1.6〜1.7μmの領域に特徴的な発光バンドを示すことが知られており,結晶導波路型Uバンド光アンプへの応用が期待できます.

    通信用アンプ材料の増幅特性スペクトルは,一括増幅できるチャンネル数を多くする観点から,できるだけブロードであることが望ましいと考えられます.固相反応により作成した各種Erドープガーネット結晶(多結晶体)について常温〜15Kにおける発光スペクトル測定を行った結果,ホスト組成Y3ScAl4O12(及びY3ScGa4O12)のサンプルにおいてブロードな1.6〜1.7μm帯発光が得られました.これは,ガーネット構造中の6配位八面体サイトがSc3+とAl3+(及びGa3+)によりランダムに占有されることで,Er3+に対する配位環境にばらつきが生じ、不均一広がりが大きくなるためと推察されます.

    Erドープアンプの場合,特に1.6μmより長波長側の領域では,発光始準位(4I13/2)から第三励起準位(4I9/2)への信号光励起状態吸収(Signal-ESA)により,発光バンドが存在しても増幅利得が得られないことがあります.そこで、イメージ炉を用いたFZ法によりErドープガーネット単結晶を作成し,その吸収スペクトルについてピーク解析及びJudd-Ofelt解析を行うことで,Signal-ESAの帯域及び強度について評価を行った結果,Signal-ESAによる増幅利得の低減は起こりうるが増幅材料として応用が期待できることが確かめられました.

  • グラフ グラフ
  • 超広帯域光ファイバ増幅器用遷移金属ドープガラス材料の研究

    大容量光通信を可能とする,波長分割多重(WDM; Wavelength- Division- Multiplexing)において広帯域の信号光を増幅する光増幅器は重要であり,現在希土類ドープファイバが増幅媒質として用いられていますが,その利得帯域は4f電子遷移発光幅により制限されるため,50nm程度です.遷移金属イオンは3d電子遷移に伴う,より幅広い光の吸収や発光を示します.近年,Cr(W)を含む酸化物結晶中で,将来の光通信波長帯域であるである1.2mmから1.6mmの広帯域にわたる波長で発光を示すことが明らかになりました.3d電子遷移による発光は,ガラス中で必ずしも効率は高くないのですが,これまでのところ通信帯域でガーネットやフォルステライトなどの限られた酸化物結晶組成中ではCr4+によるレーザ発振が確認されています.しかし,多くのガラス中ではCr3+とCr6+のみが生成し,溶融雰囲気制御のみでは4価の生成は不可能であることがわかっています.また4価が生成し得る,アルミネートなど一部のガラス組成中でのCr4+生成機構は明らかになっていません.
    もしCr4+イオンを含み,高効率発光を示すガラス材料が開発されれば,光ファイバ増幅器に適用可能で,近い将来のWDM通信システムの機能向上に大いに貢献することでしょう.
    爆発的増大を見せている近年の通信トラフィックに対応するためには,近い将来,利得帯域幅100nmを越える広帯域波長多重通信光増幅器の開発が必須です.Cr4+含有ガラス組成の開発は,3d電子遷移を利用した超広帯域波長多重通信用光ファイバ増幅器の設計の観点だけでなく,異常原子価インの価数制御という基礎化学的観点からも興味深い事柄です.我々は,透明ナノ結晶化ガラスにおいて,1.2〜1.5mmにおいて,ガラスより高い発光効率を有する材料を開発しました.

    グラフ グラフ
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