最近の研究

1.太陽電池高効率化を目指す可視-近赤外波長変換材料に関する研究

  • Pr3+-Yb3+添加オキシフロライド透明結晶化ガラスの可視-近赤外波長変換特性の評価
  • Ce3+-Yb3+系による可視-近赤外波長変換材料の開発

2.高演色性希土類付活蛍光体の創製

  • 希土類含有透光性セラミックス蛍光体の開発
  • Eu2+添加結晶化ガラス蛍光体の開発
  • 151Eu Mossbauer分光法を用いたEu付活蛍光体の価数評価

3.広帯域光ファイバ増幅器用材料に関する研究

  • Uバンド帯光増幅材料への応用を目指したEr3+ドープ酸化物結晶の光物性
  • 超広帯域光ファイバ増幅器用遷移金属ドープガラス材料の研究

1.太陽電池高効率化を目指す可視-近赤外波長変換材料に関する研究

近年、太陽光発電は、エネルギー環境問題を解決するクリーンエネルギーとして大きな注目を集めています。中でも、結晶シリコン太陽電池は、その長期信頼性、比較的高い変換効率などの利点をもつため太陽電池生産量のおよそ90%を占めています。太陽光スペクトルと結晶シリコン太陽電池の感度曲線を見ると、太陽光スペクトルは500nm付近に最大値を持ち、結晶シリコン太陽電池はその感度のピークを1000nm付近に持ちます。このため、結晶シリコン太陽電池の変換効率の最大値は28%となっています。太陽電池は、基本的に半導体の光起電力効果を利用しており、バンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ光子が入射したときのみ、1光子から1電子正孔対を生じます。入射光子の過剰エネルギーは熱となって失われます。この熱によるロスが太陽電池効率を低くする原因の一つとなっています。

※グラフはクリックで拡大
バンドギャップに対して入射フォトンのエネルギーが小さければ透過、大きければ吸収されるが、エネルギー余剰分が熱損失となる 太陽光は、およそ500nmにピークを持つブロードなスペクトルをもつ。一方c-Si太陽電池がもっとも効率よく利用できる波長は1000nm付近の近赤外光

そして、解決策の一つとして量子切断蛍光体があげられます。量子切断蛍光体は、1つの高エネルギー光子を吸収して、より低エネルギーの2つの光子を放出する蛍光体です。太陽電池応用として、Yb3+をアクセプターに、Pr3+,Tm3+,Tb3+をドナーに用いた希土類イオンペアが報告されています。Yb3+イオンは、4f準位に2準位のみをもつ、2準位間の遷移は高い発光量子効率をもち、遷移波長はおよそ1000nmと結晶シリコン太陽電池の感度ピークと一致するという利点を持ちます。一方、ドナーイオンは、Yb3+の準位間エネルギーのおよそ2倍に相当する準位を持ちます。たとえばPr3+-Yb3+のペアでは、Pr3+の基底準位と3P0準位間のエネルギーはYb3+のエネルギーギャップのおよそ2倍です。また、Pr3+は、青色の吸収を持ち、これが太陽光スペクトルのピークと一致します。そのため、この図のように1つの青色光子を吸収して2つの1000nm光子に変換し、結晶シリコン太陽電池の効率向上が見込まれます。

  • Pr3+-Yb3+添加オキシフロライド透明結晶化ガラスの可視-近赤外波長変換特性の評価

    これまでの研究で、私たちはこのような組成のPr3+-Yb3+共添加ガラス試料において量子切断現象を観測しました。Pr3+3P0励起の時、1G4準位を介した2段階 のエネルギー移動が起こり、Yb3+が1光子励起から2光子放出される量子切断課程が考えられます。一方、1D2励起を考えると、Yb3+準位間エネルギーの2倍に十分なエネルギーギャップを持たないため、1光子-1光子過程となります。これを踏まえて、試料のPr3+イオンの吸収スペクトルと、Yb発光をモニターした励起スペクトルを比べると、励起3PJバンドは1D2励起バンドの1.6倍Yb3+イオンを励起していることがわかりました。これにより、3PJ励起では、1光子-1光子以上の過程が起こっていることが確認され、ガラス中で量子切断課程が起こっていることを証明しました。

    さらに、フォノンエネルギーの低い材料で損失を低減するため、酸化物ガラス中にフッ化物結晶を析出させ、酸化物ガラスの高いガラス形成能と化学的耐久性、及びフッ化物結晶の低いフォノンエネルギーによる高い希土類発光量子効率という、酸化物ガラスとフッ化物結晶の長所を合わせ持つ、オキシフロライド結晶化ガラスをホスト材料として、Pr3+およびYb3+イオンを添加した試料を作製し、光学特性を評価しています。

  • Ce3+-Yb3+系による可視-近赤外波長変換材料の開発

    本研究では、結晶Si太陽電池の変換効率向上のための波長変換材料を研究している。結晶Si太陽電池に代表される光電池は、そのバンドギャップ以上のエネルギーをもつ単一光子を照射しても、単一電子・正孔対しか発生せず、大部分が熱として失われている。太陽光は、400~600nm の波長域にピークを持つ、紫外から近赤外域まで広がるブロードなスペクトルを示すが、結晶Si太陽電池の変換効率は、500nm以下の波長域において低く、バンドギャップに相当する1μm付近で最大となる。一方、複数の希土類イオンにおいて1 つの光子を2 つの光子に切断する量子切断という現象が知られており、この現象を用いて、太陽光スペクトルを結晶Si太陽電池の感度に合う ように変換することにより、変換効率の最大値が10%ほど向上すると見積もられている。しかしながら、現在報告されている量子切断機構は、希土類のf-f遷移を用い ており、吸収断面積が小さく、吸収線幅も狭い。本研究は、太陽電池の変換効率が低い波長領域に、4f-5d 遷移の幅広く、強い吸収(380~500nm)を持つCe:YAGと結晶Si 太陽電池の変換効率が最大となる1μm 付近で量子効率100%近い発光を示すYb3+との間の量子切断機構の解明と太陽電池カバー材料としての性能評価を主として行っている。(Fig.1に量子切断の概略図を示す)。実験方法としては、Ce3+とYb3+を共ドープしたYAG(Y3Al5O12)結晶を固相反応により作製し、発光・励起スペクトル、蛍光寿命測定などの評価を行った。 Fig.2 に441nm 励起による発光スペクトル、Yb3+とCe3+発光の励起スペクトルを、Si 太陽電池の感度曲線と太陽光スペクトルと併せて示す。Ce3+の5d 準位の励起で、Yb3+2F5/2-2F7/2遷移に基づく1μm の発光を示し、Yb3+発光の励起スペクトルがCe3+発光のそれと一致した。以上より、Ce3+から蛍光寿命測定より、ET 確率を見積もった(Fig.3)。Yb3+濃度が増加すると、短寿命化、ET の高効率化が起き、ある濃度の試料において、ET 確率は約50%となった。よって、もし理想的な量子切断機構がCe3+からYb3+が生じれば、最大量子効率は約100%を超えると見積もられた。現在、更なる詳細な研究を行っている。

  • ※グラフはクリックで拡大(fig2、fig3)

2.高演色性希土類付活蛍光体の創製

現在広く使われている白色LEDは、460nm青色LEDの上に、希土類元素のひとつであるCeを発光中心としたCe:YAG蛍光体を樹脂によって固めたものが一般的である。その発光色は黄色で、LEDの青色の透過光との混色により我々の目には白色となる。

青色LED+Ce:YAG蛍光体=白色LED

照明用白色LEDの実用化に向け最大課題は、LEDチップの発熱による"樹脂の劣化"である。光強度を得るため大電力投入を行うとチップの温度は、局所的に200℃程度まで達すると言われている。一般的な白色LEDの構造は蛍光体を塗布した樹脂でチップを覆った構造であり、それが熱により変色することで光に取出効率が低下することが問題であった(図1)。これまで耐熱樹脂の開発が急務とされたが有機体樹脂では限界をむかえつつある。そこでより光強度が必要なデバイスには、新規で包括的な方法論と設計・検討が必要となっている。

pc-wLEDの構造と構成部位の劣化要素
  • 希土類含有透光性セラミックス蛍光体の開発

    耐熱性に優れた固体照明用蛍光体用材料として固体レーザー用材料やシンチレーション検出器(電離放射線測定器)用材料として研究されている、希土類含有透光性多結晶セラミックスに注目し、研究を行っている。この材料は微小な単結晶の集合から構成されており、結晶粒界が小さく優れた光透過性を持つため透過・散乱損失が非常に少ない。加えて、ガラスよりも構造の均一性が高いため優れた発光特性を持つ粒界部分が少ないため、結晶密度が高いなどの特徴を有する。

    近年では固体レーザー用材料(Nd:YAG)において,単結晶よりも優れた発光特性を持つことが確認された。また、透光性セラミックスに添加する希土類に制限はないため、用途に応じて希土類を選択することで所望の発光特性が得られる。現在、白色LEDの励起用LEDとしては青色LEDが使用されている。この材料は材料設計により青色のみならず、任意の波長の励起用LEDに合致した発光特性を発現させることが可能であるといえる。加えて、単結晶よりも優れた発光特性を持ちながら、作製時間は単結晶よりも短く、コストも安いため、生産工程においても大きな不利はない。
    以上の理由から、この材料を用いることより高効率且つ演色性の高い白色LED用蛍光体材料が開発できると考えられる。

    本研究では、透光性セラミックスの組成として立方晶系(光学等方体) の結晶構造を持ち、 高い耐熱特性及び優れた発光特性を持つYAG:Ce3+ を選んだ。原料粉末を共沈法により作製、焼結して、本試料を得た。 得られた試料は優れた透光性を持っていた。また、その発光色は465 nm LED との組み合わせで試料の厚さによって青色から黄色まで変化した。このことから、透光性セラミックスを用いた蛍光体は白色LED 用蛍光体として有用であることが明らかとなった。

  • Eu2+添加結晶化ガラス蛍光体の開発

    我々は、耐熱性に優れた"結晶化ガラス"にEu2+を添加した結晶化ガラス蛍光体の提案を行ってきた。図2にその応用例として有機樹脂を必要としない"完全無機材料"で構成された白色LED構造を示した。 本研究では、結晶化ガラスを用いて照明に必要不可欠な高い演色性を実現するため、緑色と赤色の蛍光を示す2種のEu2+蛍光体結晶を同時に析出させた結晶化ガラスの作成に成功した。この結晶化ガラス蛍光体からは、2つの可視発光帯で構成されたブロードな発光スペクトルが観測された。 それぞれの析出結晶が同時に4f65d1→4f7遷移による緑色と赤色の発光を示す。図3には、実際の発光の写真とSEM付属のカソード・ルミネッセンス(CL)による緑と赤色の発光マッピング、および熱処理により2種類の結晶量を変化させたときのCIE色度座標位置の変化を示した。それぞれが異なる位置から発光していることがわかった。また得られた発光スペクトルは、励起LEDと組み合わせることで太陽光スペクトルのような連続光でかつ高演色のスペクトルを得ることができた。

  • 図2 図3
  • 151Eu Mossbauer分光法を用いたEu付活蛍光体の価数評価

    近年、様々なEu2+付活結晶が白色LEDなど発光デバイスの蛍光体材料として注目を浴びている。その理由としてEu2+は4f65d1→4f7遷移に基づくブロードな発光を示し、かつ高い輻射遷移確率を持つことが挙げられる。通常、Euの価数は2価と3価の価数状態が存在する。しかしEu3+はEu2+に比べ還元状態においてさえ安定なため、合成した蛍光体中のEu価数を正確に評価することは非常に重要である。特に、蛍光体に残存したEu3+は、それ自身が発光のクエンチングセンターとして働き、濃度消光や温度消光といった発光特性に大きな影響を与えると考えられる。しかしEu2+イオンとは異なり、Eu3+はf-f禁制遷移で励起発光を示すため、2価と3価が共存する場合、その存在は発光スペクトルには反映されにくく、そのため蛍光スペクトル強度比率からは試料中のEu価数の評価はできない。本研究では、還元条件を変えて様々なEu付活蛍光体を合成し、その価数評価法として151Euメスバウアー分光法を用いて、結晶中のスペクトル吸収面積比からEu2+とEu3+の比率を定量評価を行っている。

    図4、5には、焼成の還元条件を変え、得られた蛍光体の151Euメスバウアースペクトルと同試料の蛍光・励起スペクトルを示す。還元力は、二重坩堝法で用いる炭素量を増加させ、1⇒5になるにつれ強くした。蛍光体中のEu価数比率は明らかに違ったのに対し、蛍光スペクトルからは、Eu3+の発光の影響は観測されない。一方で、これらの試料間の発光効率(量子収率)は、Euの存在価数比により大きくことなり、蛍光体として重要な物性の大きな要因となっていることがわかる。

  • 図4 図5

広帯域光ファイバ増幅器用材料に関する研究

光ファイバ通信システムにおいては、大容量伝送とフレキシブルなネットワーク構築を可能とする、波長分割多重(WDM; Wavelength- Division- Multiplexing)が必要不可欠なシステムです。なかでも広帯域の信号光を増幅する光増幅器は重要であり、現在希土類ドープファイバが増幅媒質として用いられています。
通信情報量の飛躍的な増大に伴い、波長多重通信(WDM)システムの整備が急務とされており、2010年には、400波を越える波長による、テラビット通信の実現が報告されています。WDMシステムを支える種々のデバイス開発も熱を帯びていますが、光増幅器については、既存のシリカEDFA(Er doped fiber amplifier)では帯域が狭いため、通信帯域で平坦な利得を示す、光ファイバ増幅器への要請が強くなってきています。そこで本研究室ではさらなる広帯域化を目指して、Er3+イオンをはじめとしたPr3+,Tm3+などの希土類イオン、さらに遷移元素を用いた広帯域発光材料の実現を目標として研究を行ってきました。

光増幅器とは グラフ
  • Uバンド帯光増幅材料への応用を目指したEr3+ドープ酸化物結晶の光物性

    本研究では、近赤外発光材料としてのErドープガーネット結晶に着目し、光通信用Uバンド(波長1.625 〜1.675 μm)光アンプ材料としての応用可能性について検討を行っています。ErドープYAG(Y3Al5O12)等のガーネット結晶は、Er3+の4f電子準位間遷移(4I13/24I15/2)により1.6〜1.7μmの領域に特徴的な発光バンドを示すことが知られており、結晶導波路型Uバンド光アンプへの応用が期待できます。

    通信用アンプ材料の増幅特性スペクトルは、一括増幅できるチャンネル数を多くする観点から、できるだけブロードであることが望ましいと考えられます。固相反応により作成した各種Erドープガーネット結晶(多結晶体)について常温〜15Kにおける発光スペクトル測定を行った結果、ホスト組成Y3ScAl4O12(及びY3ScGa4O12)のサンプルにおいてブロードな1.6〜1.7μm帯発光が得られました。これは、ガーネット構造中の6配位八面体サイトがSc3+とAl3+(及びGa3+)によりランダムに占有されることで、Er3+に対する配位環境にばらつきが生じ、不均一広がりが大きくなるためと推察されます。

    Erドープアンプの場合、特に1.6μmより長波長側の領域では、発光始準位(4I13/2)から第三励起準位(4I9/2)への信号光励起状態吸収(Signal-ESA)により、発光バンドが存在しても増幅利得が得られないことがあります。そこで、イメージ炉を用いたFZ法によりErドープガーネット単結晶を作成し、その吸収スペクトルについてピーク解析及びJudd-Ofelt解析を行うことで、Signal-ESAの帯域及び強度について評価を行った結果、Signal-ESAによる増幅利得の低減は起こりうるが増幅材料として応用が期待できることが確かめられました。

  • グラフ グラフ
  • 超広帯域光ファイバ増幅器用遷移金属ドープガラス材料の研究

    大容量光通信を可能とする、波長分割多重(WDM; Wavelength- Division- Multiplexing)において広帯域の信号光を増幅する光増幅器は重要であり、現在希土類ドープファイバが増幅媒質として用いられていますが、その利得帯域は4f電子遷移発光幅により制限されるため、50nm程度です。遷移金属イオンは3d電子遷移に伴う、より幅広い光の吸収や発光を示します。近年、Cr(W)を含む酸化物結晶中で、将来の光通信波長帯域であるである1.2mmから1.6mmの広帯域にわたる波長で発光を示すことが明らかになりました。3d電子遷移による発光は、ガラス中で必ずしも効率は高くないのですが、これまでのところ通信帯域でガーネットやフォルステライトなどの限られた酸化物結晶組成中ではCr4+によるレーザ発振が確認されています。しかし、多くのガラス中ではCr3+とCr6+のみが生成し、溶融雰囲気制御のみでは4価の生成は不可能であることがわかっています。また4価が生成し得る、アルミネートなど一部のガラス組成中でのCr4+生成機構は明らかになっていません。
    もしCr4+イオンを含み、高効率発光を示すガラス材料が開発されれば、光ファイバ増幅器に適用可能で、近い将来のWDM通信システムの機能向上に大いに貢献することでしょう。
    爆発的増大を見せている近年の通信トラフィックに対応するためには、近い将来、利得帯域幅100nmを越える広帯域波長多重通信光増幅器の開発が必須です。Cr4+含有ガラス組成の開発は、3d電子遷移を利用した超広帯域波長多重通信用光ファイバ増幅器の設計の観点だけでなく、異常原子価インの価数制御という基礎化学的観点からも興味深い事柄です。我々は、透明ナノ結晶化ガラスにおいて、1.2〜1.5mmにおいて、ガラスより高い発光効率を有する材料を開発しました。

    グラフ グラフ
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